2015年4月12日日曜日

メタン発酵実験(メタン発酵~展望)

前回の続きです。

③メタン発酵
 メタン発酵は図1のようになっています。
図1 メタン発酵の流れ
酢酸または水素と二酸化炭素を基質としてメタンと二酸化炭素を発生させる過程がメタン生成相と呼ばれ、偏性嫌気性細菌のメタン生成菌の働きによって行われます。メタン発酵を行うメタン生成菌は、
・偏性嫌気性細菌
・菌の活動至適温度は35℃~45℃の中温、または55℃~65℃の高温
・至適pHは中性付近
という特徴を持ちます。
 この特徴を踏まえて、実験装置を製作しました。

図2 メタン発酵実験装置概要
●実験装置の作成 
 三角フラスコの口はチューブを2本取り付けたゴム栓で密閉し、一方のチューブは気体捕集袋に接続させ発生気体の捕集に用い、他方のチューブは内容物のpHを確認するためのサンプル採取に用いました。これを必要数製作しました。

●実験試料、実験条件の設定
また、メタン発酵を行うにはメタン生成菌が必要であるので、実験試料として発酵基質である蓄積物の他にメタン生成菌を含む汚泥(横浜市北部汚泥資源化センターからの提供)を三角フラスコ内に入れ、メタン生成菌と酸素の接触を防ぐために水を加えました。ここに擬似糞を一定の割合で加えメタン発酵を行いました。このときの汚泥:擬似糞の割合は、0ml:400ml50ml:350ml350ml:50ml400ml:0ml4つであり、この全量400mlに水100mlを混ぜました。(汚泥と擬似糞の割合を変えたのはどの割合でならうまく発酵するのか、発酵にうまく作用しているのが汚泥か擬似糞かを明らかにするためです)
さらに、発酵を行っていた間の2週間は、35℃に保温したインキュベーター内に静置しました。下の写真はインキュベーター内でのメタン発酵実験の様子です。

インキュベーター内のメタン発酵実験の様子
④気体の分析
発酵の際に発生したガスは気体採取の2週間の間に3回に分けて気体捕集袋に採取し、VARIAN社のCP-4900 Micro-GCを使用してガスクロマトグラフィーを行って気体の定性分析を行い、また、水上置換法によって容量の測定を行いました。

ここまでが実験内容になります。この実験手順に従いながら、実験の条件を変えていきました。


○実験結果
・メタン発酵を行う汚泥:擬似糞の比率について
灰を入れた擬似糞を汚泥と4種類の割合でまぜ、メタン発酵を行ったところ、水素・二酸化炭素・メタンが図3のように得られました。ただし、単位はmlであり、棒グラフの色は発酵時に発生した気体を捕集した時期に対応しています。(青10/20~23、橙10/23~28、灰色10/28~11/4) ちなみに発生している気体でも気体の組成では窒素や酸素も含んでおり、分析した気体の組成(%)と発生した気体の容量をもとに、算出しています。

図3 メタン発酵の汚泥:擬似糞比率による比較

・炭による比較実験
先の実験より、汚泥:擬似糞=350ml:50mlに水100mlを加えたものはメタン発酵を良く行うことが明らかになりました。追加で実験したものは、この割合にて、灰入りの擬似糞と炭入りの擬似糞、あるいはなにもまぶさない擬似糞に変え、同様に発酵実験を行いました。
炭を使う理由は、灰よりも脱臭効果や塩基性の部分で効果が高いと考えられたことに加えて、灰同様炭も途上国では比較的簡単に手に入りやすいからです。細かなクズの炭は製品として使われることがなさそう(あくまで推測の域を出ません)なので、それを想定した炭の粒子を擬似糞の堆積実験の際にまぶし、炭入りの擬似糞を得ることにしました。
この時メタン発酵実験で発生した水素・二酸化炭素・メタンは図4のようになりました。

図4 灰、炭及び添加物なしでのメタン発酵における気体の比較

○考察
・メタン発酵を行う汚泥:擬似糞の比率について
図3をみると、汚泥:擬似糞=350ml:50mlに水100mlを加えた試料が一番メタン発酵をよく行っていることがわかりました。この割合の試料に着目すると、今回の実験と同様の規模のメタン発酵については、全体で行った2週間の期間のうちおおよそ最初の1週間程度で終了するということがわかりました。また、汚泥を含む試料についてはわずかながらメタンの生成はみられます(図3ではものすごく見づらいですが、出ています)が、汚泥を入れない試料には全くメタンは発生していません。
このことから、灰を入れた擬似糞そのものにはメタン生成を行えるだけのメタン生成菌がいない、もしくは全くメタン生成菌がいない、ということが考えられます。水素や二酸化炭素については、いずれの試料からも微量しか得られなかったため、このことから糞のみを原料としたメタン発酵において水素・二酸化炭素をメタンに変えるような代謝経路があまり有効でないことが考えられます。
なぜ、汚泥:擬似糞=350ml:50mlの割合の試料だけがメタン発酵を活発に行っていたかについてはよくわかりませんが、水素・二酸化炭素由来のメタン生成が微量であることを踏まえると、有機酸由来のメタン生成を行うような菌体が関係している可能性が十分にあると我々は考えました。

・炭と灰の比較実験について
図4をみると、メタンの生成量は「灰入り>炭入り>無し」の順に少なくなっています。灰や炭を入れない試料に関しては灰・炭による中和作用を受けないため、発酵試料のpHが弱酸性になっており、メタン発酵における至適pHから外れてしまったことがメタンの生成が少ない原因であると考えられます。(実際にpHを測定していると弱酸性に偏っていることが確認できました)

以下で炭と灰で違いが生じた理由を考察します。

一つ目に考えられるのは、使用した炭が灰に比べて粒が大きいことがあげられます。8のように擬似糞の堆積物に炭と灰を加えていったが図のように粒の大きさが違うため炭では灰に比べ粒が大きく、うまく全体になじまなかったことによりpHにばらつきが出てしまいメタン生成菌がうまく反応できなかったということが考えられます。

二つ目に、炭では塩基性成分が流出してしまっていた可能性が挙げられます。この炭は東工大すずかけ台キャンパスでバーベキューをしたときに残ったものをもらってで使用したのですが、回収する前日に雨ざらしになってしまったため炭の中の塩基性成分が流出してしまったと考えられます。そのため灰と比べてメタン生成の原料となる酢酸などの有機酸をとどめることができなかったことが原因と考えられます。また、糞の中のにおいの元である有機酸をとどめることができなくなる分、脱臭効果も灰に比べて低く灰を加えたものに比べてにおいが強かったという印象がありました。

炭入りの擬似糞におけるメタン発酵のメタン生成量は劣りましたが、それでも反応が進んだことから、これら2点をを改善すれば炭でも灰と同様に期待できるとわかりました。


○展望
今回の実験において目的で述べた、灰+便,炭+便の混合物からのメタンの生成は可能であるかについての結論としては,両者ともメタン発酵は可能であることが分かりました。しかし、考察にあげたとおり今回の実験では灰を入れたものより炭を入れたものは劣っていることが分かりました。ただし改善点が多くあげられ、同様にメタン発酵をした際の代替できる可能性は期待できると考えられます。

今回の実験を通じて、メタン発酵の原理とその実際の環境を自分たちで作り上げることができたというのは非常に大きな収穫になったと思います。しかし、実際には発生したガスをどのように貯蔵し、利用するのかといった点や、実際に使えるレベルのガスの容量が確保できるのかといった点についてはまだ不明なところが多いのが実情です。

今後、もし時間があれば、炭による実験をもう一度行うとともに、汚泥と擬似糞の比率をより効率的なものを求めること、そして、最終的には実際の糞を用いる実験を行っていきたいと思います。




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